歩いたり食べたり撮ったり座ったり

カメラを持って歩くのが好きです。

時空を超えて

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時空を超えて/萩市萩城下町俥宿

RICOH GRⅢ ポジフィルム調

 

席が空いたという案内をもらって、屋敷の一角に増築された洋館に足を踏み入れた。大正時代の建築らしい。この日はこの部屋の特等席である窓辺の席に座る事ができて、紅茶と羊羹のセットをいただくことにした。古い木製の窓には子供の頃に馴染みのあった召し合わせの部分に金属の棒を差込んでくるくる回すタイプの鍵がついている。格子も少し凝った意匠だ。木造の住宅の耐用年数は25年程度といわれているが、使い続けて手入れをすればずっと長持ちをするものだということを、ここの主人は証明している。江戸時代の古い街並み、そこに残る旧家の屋敷、増築された洋館、古いイギリスの家具、昭和の着物、いろいろな物が時空を超えてこの空間に違和感なく納まっている。設計されて1〜2年もすれば陳腐化するデジタル機器とは対照的な、物としての価値はそれを使う人によって創り出されるものなのだろう。捨てることが美徳のように思われているこの社会で、そんな物を所有するには少なからず覚悟が必要だ。そういえば妻が着ている着物を助け出した実家には、父が大切にしていたNikonもあった。マニュアルフォーカスのフィルム一眼レフにはNikkorの50mmが付いていた。レンズの中を覗くとカビが生えているようで、ボディもまともに機能するかは定かではない。現代の気忙しさの中を生きる僕には、まだこのNikonを再整備して使う覚悟はない。が、そんな覚悟をするときがくれば、ちょっとステキなことだなと思うのである。