歩いたり食べたり撮ったり座ったり

カメラを持って歩くのが好きです。

無人の家の記憶

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静寂の宴/愛媛県内子町小田深山

RICOH  GRⅢ ポジフィルム調

 

夜中に無人の実家に着いた。中の様子は前回帰ったときのままだ。とりあえず荷物を下ろして寝られるように準備をして風呂に入りにいく。僕が育った街は真夜中でも銭湯感覚で温泉が楽しめる。1日の疲れを流して布団に入ったときには午前3時を過ぎていた。

3時間ほど寝ただけで朝が来た。無人の庭のオブジェは少しずつ形を変えながら進化しているようだ。この日は庭全体の不要なものを捨ててしまいたかったのでオブジェばかりにかまってはいられなかったが、どういう形で残すかだいたいの構想ができてきた。次に帰ってきたときに実行に移すとしよう。

家の中は細々とした小物が散乱していたのだが、妻が効率よく片付けている。この家の記憶がない妻のほうが片付けがはかどるのはいわずもがな、散らばっているものに思い入れがない分、必要か不要かで選別することができるわけだ。個人情報が載っている紙類、つまりは葉書とか領収書とか名簿、あるいは病院の検査の結果だとかをシュレッダーにかけるのは僕の役目だったが、作業をしているうちに両親がこの家で暮らした様子が目に浮かんできて、写真などを見れば、けっこういい人生だったんだろうと嬉しくなったりもする。僕の小学校入学から中学校卒業までの通信簿を見つけたときには苦笑いしてしまったけど、うちの親はとにかく何でも残しておく主義だったようで、母は父の給料明細を全部しまい込んでいた。最後の明細書にお疲れさまでした、ありがとうと書いた母の気持ちなども含めて、この無人の家には僕の家族の記憶がしっかりと残っている。

そんな記憶を選別しながら、今回も3日ほど滞在した。次に帰るときにはまた例のオブジェも少し形を変えているだろう。要らないものの選別が済んだら、少しずつこの無人の家の記憶を陽の当たる場所に出してやろうと思っている。