居場所

居場所/愛媛県松山市

RICOH  GRⅢ ポジフィルム調

この広縁は僕がこの家に住んでいたときには無かったスペースだ。この団地ができた当時は全ての家が平屋だった。今は周りの家々も増築、建て替えが進んで2階建の家が多くなってきて、唯一、当時の面影が残っているこの家は父母がこの広縁のみ増築したのだ。この家は団地の南西の角地にあって南側は道路の向こうに小さな川が流れていて、その向こうは田んぼが広がっている。西側も道路を隔てて畑なので2階建の家が増えた団地の中でもその間に埋もれることなく一日中陽が射す環境を保っている。

この広縁も物置状態だったわけだが、妻が滞在中に洗濯物を干したいからと真っ先に片付け、今はこの家の中で一番気持ちのいいスペースになっている。掃き出し窓を開ければ遠くには高知へ続く峠道が見えて、その麓には僕が通っていた中学校と父が眠る霊園がある。

この家に帰るとき、僕は毎回ギターを持って帰る。荷物になるのは分かっているけれど、この広縁から南に窓を開け放ってギターを爪弾くのが最近の楽しみになっているのだ。高校一年生のときに成績アップと引き換えに買ってもらった安いモーリスのフォークギターを抱えて指に痕が残るほど練習してかぐや姫だとかふきのとうとかの曲を弾いていた。40年以上の年月を経て、持っているギターはずいぶん高価なものになったけれど、弾ける曲は相変わらず、想いもさほどの変化はない。一度離れて、戻ってこられるかも分からないこの場所にこの夏小さな居場所をつくり、気忙しい日常の隙間を見つけてここに来るのがささやかな楽しみになっている。