歩いたり食べたり撮ったり座ったり

カメラを持って歩くのが好きです。

風景とは…

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風舞/山口県防府市右田ヶ岳登山道より

RICOH  GRⅢ ポジフィルム調

 

また話は前後する。前に芸北へ山登りに行ったときに赤い蕎麦の花が咲いているところを通りがかって、クルマを道端に停めて少し歩いてみた。すると前方に蕎麦の花に隠れるように屈み込んでカメラを構えている人が数人見えたので、どういう構図を狙っているのかなぁと近づいていくと、その中のひとりが大きな声で何かを言っている。よくよく聞いてみると僕のクルマが狙っている構図の中に入って目障りらしく、クルマを退けろということらしい。何を言ってもいるかを理解したところで何となく興醒めしてしまったので、そのまま次の目的地の湿原まで走って、紅葉の始まりかけた山の裾野をぶらぶら歩いて深まりゆく秋の休日を楽しんだ。帰り道に件の場所を通りがかると、例のグループはまだ蕎麦畑の端っこに屈んでファインダーを覗いていた。

山口県日本海側に棚田と漁火が絵になる場所があって田に水が張られる頃になると、昼間から狭い道端に三脚の砲列ができる。三脚に重りが付いているだけでカメラは乗っていない。この三脚は夜までの場所取りのためにそこにあるのだ。そして三脚の主人たちはクルマの中でその時を待つ。たまに訪れる一般の観光客は三脚の隙間から窮屈そうに記念撮影をしてさっさと行ってしまう。夕闇が迫り、沖に漁火が見え始めると、三脚の主人たちは俄然活気づいて、せっせと目の前の風景をメモリーに貯め込む。そうやって持ち帰ったその人たちの思い出はきっとみんな同じ形で同じ色をしているに違いなく、そして自分たちの並べている三脚の列が、この美しい風景をどれほど台無しにしているかなど知る由もないだろう。

 

風景の一部になれるような大人のカメラマンになりたいものだ…。